director's voice

atelier bōc (製本)

5年前、空想製本屋という名前で出展くださった本間あずささん。
今回は、自ら主宰される自作手製本レーベル atelier bōc として出展くださいます。

Q1
atelier bōcさんは、工房からの風に、どのような作品を出品されますか?

A1
読むだけでなく、生活の中で飾ったり、季節のしつらいとして楽しめる手製本作品を紹介したいと思います。

雨にまつわる言葉が刷られ、本を開くと吊るしてオーナメントのようにも楽しめる『雨音(あまね)』、
頁をめくるごとに月が満ち欠けしていき、月の季語と共に月の形の変化を手の中で楽しめる『月の舟』、
窓から覗いた移りゆく雲の景色を本として表した『雲のまど』など、季節や自然をとじこめた本6種を出展します。

一点制作のアートブックも数冊お披露目したいと思います。

屋号のbōcは古英語で、「本」と「ブナ」の二つの語源となることばです。

ブナの木のように深く大地に根を張って、植物的ヴィジョンを抱きながら本と人の手との関わりを深めていけるようにと名付けました。
初出展時は「空想製本屋」としての参加でしたが、今回はこの作品制作部門の屋号で出展します。
生活空間や時間をそっと照らす、ささやかな工芸としての手製本をご紹介できれば嬉しいです。

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Q2
atelier bōcさんの工房の中で、特に大切にしている場所、あるいは部分、印象的な場所、空間、または、道具の写真を1カット撮ってください。
そして、その説明をお願いします。

A2
譲り受けた鉄製のプレス機です。
知る限りは私で3人目の持ち主で、元はイギリスで製本を勉強された方が船便で日本まで運び、その後別の方を経て、私のところにやってきました。
たいへん重く、動かすのには大人3人がかりです。

譲り受けたのは15年近く前で、会社員をしながら初個展を終えた後でした。
場所もとるし重さもあるものなので、「これからずっと製本をやっていくのだ」という覚悟を決めた覚えがあります。

それ以来、幾度かの引っ越しの度に移動に難儀しましたが、マンションの8階や古い平家の床、さまざまな場所に変わらずある存在でした。

道具としては、製本前の紙の束を平らにする際や、見返し貼りの圧力をかけるのに欠かせないものです。
どっしりと、いつもアトリエの床にある佇まいは、心の重心、のようになっているのかもしれません。
これからもこのプレスでたくさん本を作っていきたいです。

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Q3
atelier bōcさんが自作以外で、大切にされている、あるいは、愛用されている工藝品をひとつ教えてください。

A3
私のふるさとである、茨城県、笠間の焼き物です。
さまざまな作家さんの作品が混じっていますが、どれも思い入れのあるものです。
陶器市で求めたもの、好きな作家さんのもの、親の長年の友人でもある陶芸家の方のもの、実家から持ってきたもの……
気づけば家にあるうつわの多くは、笠間のものでした。
故郷で過ごした時間より離れて過ごした時間の方が長くなってしまいましたが、
毎日食卓で触れるたび、故郷の土に触れている感覚になっているのかもしれません。
大切なつながりを記憶に留めてくれる存在です。

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atelier bōc
の名前の由来も素敵ですね。
本間さん、そう、本の間、という名字がまさにぴったりのお仕事。

本間あずささんの世界。
知と手の抱くすばらしさが、デザインとしても堪能できるところがなんとも心が躍ります。
今回の出展場所は、おりひめ神社鳥居の正面に向かって右側。

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